あなたの知らないカレッジフットボールの世界

私が応援するカレッジフットボールのスタンフォード大学にてコーチをされている河田剛氏の著書『不合理だらけの日本スポーツ界』を参照しつつ、私の全知識をもって、ソースも加えながら『あなたの知らないカレッジフットボールの世界』と偉そうなタイトルをつけて、この世界について語ってみたいと思います。

これはNFLを見ているけどカレッジの世界を知らない人や、アメフトを全く見ないけど、アメリカで異常に人気のあるカレッジフットボールって何なんだって思っている人達に少しでもこの世界を知ってもらえればと思って書いております。

*(金額は全て1ドル100円換算です)

貢献度の割に利益の少ない学生アスリート

カレッジフットボールはアメリカでは非常に人気で大学の大きな収入源となっています。

例えばTexas大のスポーツ部門の70%の収入はアメフト部です。*1

ここ3年間の平均売り上げ総額は147億円、平均収益は92億円となっています。*2

それだけアメリカ人を熱中させるスポーツの裏側には少し闇もあります。これほどの利益を大学に与えている学生アスリート達ですが、明確に収入と言えるものを大学から受け取っていないのです。彼らにとっての利益とは大学のFull-rideと言われる奨学金です。ただしこれにも数の制限があります。Full-rideとは授業料も無料、寮費も無料、授業に必要な教科書代や筆記用具の費用から、中には生活費までも支給されているとのことです。それ以外の形で選手に利益を与えては行けないことになっているとこの本に書かれています。例えばペンやノートであれアメフトで使用するもの以外は学生に無償で与えては行けないそうです。もちろん食事を奢ったりするのもダメとのこと。

これらの選手への無償提供を禁止しているルールなどは全米大学体育協会(NCAA)によって制定されており、そのルールは練習時間にまで及んでいます。アメフト部が選手を拘束できるのは17時間のみで、学業に支障をきたさないようになっており、これらのルールに違反した場合は学校やチームに罰則が与えられるとのこと。この本によると大学がそのルールに違反していないように監視する部署を大学側で用意しているそうです。

しかしそんな中カリフォルニア州では「Fair Pay to Play Act」という法律が制定されました。*3

Fair Pay to Play Act解説動画

2023年1月から執行されるこの法律は、学生アスリートが自身のビジネスを通して収益を得ることができる仕組みとなっています。サインを売ったり、テレビCMに出演したりして収益を得ることが可能となるのです。

例えば強豪校のAlabama大のTua Tagovailoa選手はインスタグラムのフォロワーは約40万(2019年10月11日時点)となっています。*4

これほどの人気を持ちながら収益が奨学金だけというのは歪です。そんな彼もこの法律が執行されれば膨大な収益を得ることができるでしょう。

今後こういった人気選手が収益を得られるようになると、NCAAの規約に違反してしまいます。するとNCAAが主催する大会に出場できなくなる可能性があります。もちろん収益を得られるカリフォルニア州に優秀で人気のある選手は集まることになるでしょう。今後この流れが他の州にも広がると見込まれており、今後の動向が気になるところです。

*追記

カレッジフットボール界に大きな変化が訪れました。

大学が直接学生にお金を払うことはできないですが、選手個々人が自分のイメージを利用して収益をあげることが可能になる見込みです。*10

SNSのフォロワーが多い学生は、企業と契約をしてお金を得ることが可能になる見込みです。

しかしゲームといった複数の選手が登場するものについてのルールは変更がないようで、現状では実現できないようです。*11

リクルーティングのために莫大な金が選手以外の場所で駆け回る

資本主義社会ではお金を多く払えばいい人材が来るがカレッジフットボールの世界では今の所、選手をお金で釣ることができません。では大学は何をするのかというと…施設投資と人材投資です。

良いロッカールームやカッコいいユニフォームを用意し、優秀なコーチ陣に多額のお金を払うことで選手を惹きつけるのです。

カレッジフットボールに所属する選手は長くても4年しかプレイすることができません。3年間プレイすればプロリーグのドラフトに参加することが可能な状況もあり、選手の入れ替わりが激しいのもカレッジフットボールの特徴です。そんな状況下で勝ち続けるためにには1から選手を育てるのではなく、もともと優秀な選手を多く手元に置いておくのが最適です。そこで大事になってくるのがコーチ陣のリクルーティング能力となっているのです。この本ではこの能力が一番大事だと述べられています。

良いHCがいれば試合に勝つことができ、選手も良い成績を残せます。そして大舞台に立つ機会も増え、NFLのスカウト陣の目に留まる可能性も上がります。優秀な選手がいいHCがいるチームに行きたがるのも納得です。

そのためにも大学は高額な報酬をHCに払っています。2019年に全米王者となっとClemson大の監督Dabo Swinney氏は米国記録の、10年間で93億円に及ぶ契約を結んでいます。*5

施設投資の話をするとルイジアナ州立大学では今年2019年、新しいロッカールームのために28億円の投資を実施。プールや仮眠ポッドからミニシアター付きと非常に豪華なロッカールームが選手のために準備されました。*6

Nikeと契約しているオレゴン大は、2018年度に7500万円を現金でNikeから受け取り、2億5千万円に相当するユニフォームや身の回り品を提供されています。*7

強いチームになればこういったスポンサーが付き、大学が潤い、そのお金で設備投資を実施し、お金を貰えない代わりに良い環境を欲しがる選手を引き寄せるというのがカレッジフットボールの経済の仕組みです。(Nikeの創業者がオレゴン大出身というのもありますが…)

プロリーグへの登竜門となっているカレッジフットボール

しかしどんなに活躍しようが収入が増えるわけではない状況でなぜ選手達は大学で頑張るのでしょうか。それはNFLに行くには必ずといっていいほどカレッジで活躍しなければいけないからです。

カレッジで活躍できないとプロチームのスカウトの目に止まりません。選手間の競争が激しいこともあり、先発の座を勝ち取れなかった選手が転校を選択し、NFL関係者の目に止まるように、先発としてプレイできる環境を探すことも多々あります。

これほど頑張ってもプロリーグであるNFLは非常に狭き門でもあります。

2020年4月のデータを見てみると、NCAAに所属している大学からNFLへ行ける選手の割合は1.6%となっています。*8

NFLに行けたとしても平均して3.3年しか選手生命がないと言われています。*9

そのためNational Football Leagueの略であるNFLのことをもじって、「N」ot 「F」or 「L」ong(長くない)と言われるくらいです。

アメフトの道が終わった後のセカンドキャリアの為にも、大学を卒業しておいた方が選手本人のためにも、とても大事なことなのです。

この本によると、卒業せずにNFLへ進んだ選手の中には、契約時に大学卒業までのに必要な移動費や授業料の保障、さらには博士号を取得すればボーナスの支給といった内容を盛り込んでいる選手もいるとのことで、選手も将来のことを考えていることがうかがえます。

まとめ

この本を通して、カレッジフットボールの新たな側面を知れました。大学側やNCAAはあくまで選手を学生として捉えており、学業を優先できる環境形成を厳格なルールのもと行なっており、選手自身もアメフトだけが人生でないことを理解してセカンドキャリア形成に役立つようにと勉強に励んでいることを知れました。しかし同時に莫大なお金が動く中で報酬が奨学金のみと、比較するとあまりにも小さいリターンしか学生に還元されていない環境を少し歪に感じました。才能のある選手からすれば、試合に出れば怪我のリスクがあります。怪我をしてしまい選手生命を絶たれてしまえば、稼げるはずだった大金を逃すことになるのです。競争が激しい故にカレッジでプレイするしか道が他にないのです。この状況を良いものと捉えるのか、独占的と思うのかで意見が分かれそうな気もします。サッカーであれば様々な国にチャンスがありますが、アメフトはアメリカだけでしか大金を稼ぐことができないのです。

消費者として、この学生搾取とも捉えられる環境に少し疑問を持ってしまいました。

参考ページ

*1 Business Insider「The average college football team makes more money than the next 35 college sports combined」(最終閲覧日2019年10月11日)

https://www.businessinsider.com/college-sports-football-revenue-2017-10?r=US&IR=T

*2 Forbes「College Football’s Most Valuable Teams: Reigning Champion Clemson Tigers Claw Into Top 25」(最終閲覧日2019年10月11日)

https://www.forbes.com/sites/chrissmith/2019/09/12/college-football-most-valuable-clemson-texas-am/#3a7d36a3a2e7

*3 Vox「Free labor from college athletes may soon come to an end」(最終閲覧日2019年10月11日)

https://www.vox.com/identities/2019/10/3/20896738/california-fair-pay-to-play-act-college-athletes

*4 Tua Tagovailoa氏のインスタグラム

https://www.instagram.com/tuamaann_/

*5 Market Watch「At $93 million, Clemson’s Dabo Swinney becomes highest-paid coach in college football history」(最終閲覧日2020年5月14日)

https://www.marketwatch.com/story/at-93-million-dabo-swinney-becomes-highest-paid-coach-in-college-football-history-2019-04-26

*6 WAFB9「$28 million LSU locker room renovation sparks heated debate」(最終閲覧日2020年5月14日)

https://www.wafb.com/2019/07/23/million-lsu-locker-room-renovation-sparks-heated-debate/

*7 USA TODAY「Nike on verge of $88 million deal with Oregon athletics」(最終閲覧日2019年10月11日)

https://eu.usatoday.com/story/sports/ncaaf/2017/11/30/nike-new-deal-oregon-athletics/911715001/

*8 NCAA「Estimated probability of competing in professional athletics」(最終閲覧日2020年5月14日)

http://www.ncaa.org/about/resources/research/estimated-probability-competing-professional-athletics

*9 Career Trend「How Long Is the Average Career of an NFL Player?」(最終閲覧日2020年5月14日)

https://careertrend.com/how-long-is-the-average-career-of-an-nfl-player-3032896.html

*10 ESPN「NCAA group supports player endorsement plan」(最終閲覧日2020年5月14日)

https://www.espn.com/college-sports/story/_/id/29112263/ncaa-group-oks-conditional-player-endorsements

*11 247sports「Reaction: What ruling means for ‘NCAA Football’ video game」(最終閲覧日2020年5月14日)

https://247sports.com/LongFormArticle/NCAA-EA-Sports-college-football-video-game-player-likeness-ruling-reaction-146613554/#146613554_1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください