パスプロの世界を知ることで、QBがサックされた時の問題や、ブリッツがいかに計算されたものであるのかを知ることができ、アメフト観戦がより面白くなります。
ここではパスプロの基本的な考え方を解説していきます。
もちろんチームによって考え方は違いますので、ここで語られていることは一つの例であり、いわゆる「絶対的な正解」ではないです。
・なぜQBがスナップ前に「マイク 54(背番号)!!」などと言いながらLBに対して指を指しているのか
・なぜQBが両腕でLB2人を示しているのか
こういったアメフトを見ていたら思う疑問が解けます。
最後の方にはパスプロに関する雑学も用意してあります。
まずは参考動画
Contents
①スライド方向の決め方
まずスライド方向について話す前に… 絶対的なルールとして 「AギャップBギャップから人を漏らさない」 ということが述べられています。
中央はQBに最も最短距離でプレッシャーをかけることが出来るので、基本的には中のプレッシャーはフリーにはしません。
さてここからスライドについてです。
基本のスライド方向はウィークサイドのLBに向かってスライドします。(チームにもよる)
ウィークのLBのブリッツはないと判断されたり、何かしら他の理由がない限りストロングサイドへのスライドはコールはしないとのこと。
この際に、どうやってウィークのLBを特定するのかというと、皆さんも見たことのあるQBによる「マイク 54(背番号)!!」といった声かけで指定しています。
NFLを見ているとQBやセンターによって「マイク(LBのポジション名)」が誰なのかをスナップ前に指さしているシーンを見ますよね。これによってOLのスライド方向が決まります。
例えば以下画像のような右ストロング体型で、QBが中央のLBをマイク(Mike)と指定したとすると、この場合ウィークサイドは左サイドなので、左のLBに対してスライドします。 黒線で囲った5人をOL5人が守る役目を負っています。
ただし、OL5人全員が左にスライドするわけではありません。
Slideを始めるのはDLが目の前にセットしていないOLからスライドを始めます。
この画像ではセンターの目の前にDLがいないのでセンターから左のOLが左へスライドします。
ウィークサイドのLBをキーにすると言いましたが、マイクをキーにすることももちろんあります。
ウィークサイドの守備がDBタイプで、ブリッツには来ないのではないかと判断された時などにマイクをキーにします。
例えばこんな感じで、黒枠内の守備をOL5人でチェックします。
②RBのパスプロ
RBのパスプロの仕事は何なのか。
RBを含めた6対6の場合では、OLがウィークのLBサイドにスライドするので、RBはストロングサイドのLBをチェックすることになります。
反対にOLがストロングサイドにスライドするのならウィークサイドをチェックします。
③6人では取りきれない7人目のラッシュが入ってきた場合
6人でのパスプロなのに、7人目の守備がラッシュに来る可能性もあります。
その可能性も考えてRBは7人目も含めた2人の守備をリードします。
この時は上記のABギャップを先にケアするルールのもと、中から外の順で優先してRBはブリッツをパスプロします。 例えば二人ともブリッツに入るのなら、中を優先してパスプロします。
みなさんもNFLの試合中にQBが両手で守備を指しているシーンを見たことがあると思います。
指で指定された守備2人が、RBがリードする2人です。
そして近くにいるWRもこの指定された2人のLBを認識して、2人がブリッツに入る時、つまりパスプロの人数が足りない時に、WRはHotルート(QBがすぐに投げられる緊急時用のルート)にルートを変えます。
Emptyプロテクション
ではEmptyフォーメーションでのパスプロはどうなっているのでしょうか。
Emptyとは基本的にOL5人とQBだけがボックス内にいるフォーメーションを意味している。
つまり5人までのラッシュならOLがパスプロすることができるが、その時にどういったルールで彼らはパスプロをしているのか、そして6人目以降はどう対処しているのかを解説していく。
参考にしているものは以下のもの。
Ohio Stateのコーチによる5人パスプロの説明動画
Kurt WarnerによるEmptyパスプロ解説動画
そもそもパスプロの種類にはMan、Slide、その二つを組み合わせたComboと呼ばれるパスプロの種類があります。
ここでは5人のOLでのComboをみていきます。
右ガードと右タックルはマンツーマンのプロテクションをするのでManサイド。。
左はスライドしてA,B,Cギャップを見るのでSlideサイドと言います。
DLがクロスしてきてもMan sideの右ガード、右タックルはクロスせずにそのまま自分の場所でパスプロをします。
右ガード、右タックル のパスプロは真後ろに下がるパスプロをします。 肩はスクリメージラインに平行にしておきます。
ではManサイドにブリッツが入った場合のパスプロは?
こんな感じになります。画像右のエッジの選手はパスプロされません。
その際にはWRがHotルートを走ります。浮いたエッジの選手にサックされる前にHotに投げるのがQBの仕事になります。
Kurt Warner曰く、上記のようにEmptyパスプロテクションで人数が足りない時に、右と左のどちらの守備を浮かせるのかは、WRが多い方のサイドを浮かせることが多いとのことです。 WRが多いサイドの方がHOT(緊急ルート)を作りやすいからです。
SlideサイドへのLBブリッツが入った際は、同様にSlideでA,B,Cギャップを守ります。
4人目のブリッツ(この場合だとCBがブリッツ)が入ると思われる時にはLTが「Alert(アラート)」を発して右ガード、右タックルもスライドします(フルスライド)。
守備はどう攻めているのか
以上のパスプロルールを踏まえた上で、守備はどんなプレッシャーをかけているのか一例を見てみましょう。
これはかなり極端な例ですが、Clemson大の元DC(現Oklahoma大HC) Brent Venablesは、Emptyでのフルスライドのルールを逆手にとって、一人だけラッシュさせて、必ずその一人がフリーになるようなプレッシャーをコールしています。
画像左側はOLが画像左にスライドしたもの。OL5人の前に守備が6人セットしており、一人は必ずフリーになります。画像左にスライドしたので、パスプロをされた守備5人の選手はパスカバーにまわり、一番右のフリーになった選手だけがラッシュをします。右画像はスライドが画像右側に対してのもの。
パスプロ雑学
Popとは?
この動画では、センターはMikeとSam(ストロングサイドのLB)をチェックしており、MikeがBail(後ろに下がる)ことでSamへのパスプロに移行している。 Will(動画手前のウィークサイドのLB)がブリッツに入った際にはRBにブロックを指示しています。
この動画でもセンターはブリッツに入るMikeに対応するためにPopしています。
B.O.Bとは?
これは「Big On Big」「 Back On Backer」の頭文字。
OLはDLを、RBはLBをパスプロすることを意味しています。
RBがDLをパスプロすることはミスマッチになるので、基本DLはOLがパスプロしたいですね。
終わりに
以上のルールを理解したうえでアメフトを見るときっと新たな見方ができてよりアメフトが楽しくなることでしょう。
こういったパスプロのルールを逆手にとったブリッツなどについては、気が向いたら書きます。
他にもアメフトについて知りたい人はこちらをどうぞ。