仄暗いフィンランドの底から#4「プロフェッショナル 仕事の流儀」

「ちょっと扉の前から退いてもらえる?」

疲れた顔をした「ミイ」が真顔で私の同僚に話しかけていた。

 トゥルク-ストックホルム間を運行するフェリーの清掃のアルバイトを終え、船から降りる時の出来事である。船内に乗り込んでくる子供達に天使のような笑顔を振りまいていたミイは、オフになると笑顔が消え、「Staff Only」の扉の向こうへと消えていった。

 フィンランドを旅行していると気がつくことかもしれないが、フィンランドの接客ではあまり笑顔を見かけない。日本の接客業に慣れてしまっていると正直物足りないと感じることもある。

 一方で人を介さないサービスはとても効率的で素晴らしいサービスを提供している。オンラインで様々な手続きを済ますこともできるし、配達などは宅配ボックスがかなり普及しており、受領手続きも非常に簡素で使いやすい。この差はどうして生まれてしまったのだろうか?フィンランド人がシャイだからか?

 フィンランド人はシャイなことで有名であり、バス停ではかなり人と距離を開けてバスを待ったり、エレベーターの中では無言、挨拶しても返事がないということがある。そういったシャイが理由でできるだけ接客を無くす仕組みができているのかもしれない。

 そんなわけあるか。もちろん人件費が原因だろう。フィンランドの労働者は法律でかなり守られており、経営者はどうやって会社を回しているのかと私はいつも不思議に思う。では高いお金を出して人を雇っている訳だから、無表情の代わりに知識はあるだろうと思いたくなるが、そうとは限らないこともある。

 ある日、家電量販店でUSBタイプCとHDMIの変換アダプターを探しだし、他の商品と比較したいと思い、店員に探してもらったことがある。出てきたものは「ライトニング(iphoneのやつ)」の変換アダプターであった。「いやいや、これライトニングです。タイプCが欲しいんです」と言うが、店員は頑なに「これはタイプC」と言うのだ。家電量販店で働いているのにこんな初歩的なことも知らないのである。ビックカメラに留学してもらいたい。

 日本の家電量販店ならば詳しい店員さんが笑顔と豊富な知識で素晴らしい接客をしてくれるだろう。それと比べると、ぶっきらぼうなフィンランドの接客に加え知識もない店員の対応はかなりがっかりした。

 しかし一度だけとびっきりの笑顔で接客されたことがある。

 私はスマホを買い換えることになり、またまた同じ家電量販店に赴いてその場で予約をした。「〇〇日に商品が届くので電話に連絡するよ」と言われその日はお店を後にした。到着予定日になってもまったく連絡がこないので不思議に思いながらもお店へ赴いた。フィンランド生活に私も少し慣れたこともあり、店員の言っていたことを信用していなかったのだ。店員さんに予約した商品が届いていないかと尋ねてみると、むすっとしたお兄さんはお会計デスクの裏側の部屋に入っていって数分後に商品とともに帰ってきた。

 お兄さんは「あったよ!(ニッコリ)」ととびきりの笑顔で言うのだ。

 いや、笑顔より連絡してくれい!!

 それ以来、私はこちらの店員の言うことは信じないことにしている。

 正直笑顔はなくても問題ない。むしろ日本の接客は過剰サービスすぎるようにも思える。特にマニュアルガチガチな接客はどうかと思う。一方で日本はプロ意識が高く感じる。アルバイトでさえすごく真面目に働いている。

 レストランでの目的は美味しいご飯を食べること。スーパーの目的は生活用品を買うこと。本屋の目的は本を買うこと。目的さえ達成できれば笑顔など必要ないのだ。笑顔を見ることは目的ではないのだ。

 そう思うとあのミイは本当にプロ意識があったと思う。ミイは求められていることをしっかりと把握していた。ミイは子供の前では満面の笑顔見せ、ミイはオフでは普通の人に戻るのだ。

 きっと今日もミイは船内で子供たちを笑顔にしていることだろう。

おわり

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