『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ カルヤライネン (著), セルボ 貴子 (翻訳), 五十嵐 淳 (翻訳)

 久しぶりにかなり分厚い本を読み終わって達成感があった。しかし時間をかけすぎてしまった。トーベ・ヤンソンと聞けばムーミンのことしか知らなかったが、実は精力的に様々な文化活動をしている人だったようだ。本人は画家であると言っており、私は画家のトーベを少しも知らない。もしかしたらそういった人は多いのではないだろうか?

 実のことを言うと、私は妻と出会う前はムーミンがアニメ原作だと思っていた。そこから段々と原作は小説で、そしてスウェーデン語で書かれていることを知った。しかしその作者のことについてはこちらに住み始めても全く知らなかったのだ。この本を通して彼女の人間関係や若い頃のトーベについて知ることができた。いかにフィンランドの自然や、島が彼女の作品に影響を与えていたのか。そして戦争がいかに彼女の作品のみならず、彼女自身にも大きな影響を与えたのかをこの本から知ることができる。

 トーベについてだけでなく、この本では昔のフィンランド社会についても知れる。今回初めて知ったことはフィンランドにも禁酒法時代があったことや、冬戦争頃のフィンランドには親ドイツ派が大勢いて、ドイツがフィンランドを解放してくれると信じ、ユダヤ人を嫌っていた人達がいたこと。戦時中は6人の子供を持つことが理想とされていたことなどだ。2020年からすれば考えられないようなことばかりである。過去の彼らに2020年のことを伝えても信じられないだろうが。それくらい社会は変化するのだなと思わせられた。2120年がどうなっているのか想像もつかない。

 同性愛についての変化もとても驚きであった。フィンランドでは1981年までは同性愛者は病気とみなされ、1971年までは法律違反であったそうだ。なんと40年前までは病気と考えられえていたのである。おじいさんおばあさん世代の人たちは、若い頃はこう言った考えを持っていたのだろう。世代間でギャップが生じるのは納得である。

 現在では、フィンランドはムーミンを売りにしているが、ムーミンの小説が出版された頃にはフィンランドではあまり注目されていなかったと言うのも興味深いことであった。もちろんスウェーデン系フィンランド人であるトーベの母国語であるスウェーデン語で書かれていることもあり、出版社が翻訳するかどうかの判断も邪魔したことだろう。

 私はあまりにもフィンランドの文化的な歴史だけでなく、社会的な歴史も知らなかったんだと思い知らされた一冊でした。

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